KKS KanajoJ
1
やまとうたは、人の心をたねとして、よろづのことの葉とぞなれりける、世中にある人ことわざしげきものなれば、心に思ふ事を見るものきく物につけていひいだせるなり、花になくうぐひす水にすむかはづの声をきけば、いきとしいけるものいづれか歌をよまざりける、ちからをもいれずしてあめつちをうごかし、めに見えぬおに神をもあはれとおもはせ、おとこ女のなかをもやはらげ、たけきものゝふの心をもなぐさむるは歌なり
- いづれか歌を] いつれかは歌を(元)
- あめつちを] あめつちをも(元)
- 歌なり] 歌なりけり(元)
清濁:
- おに神
- Most editions either do not provide a reading for 神, or they voice as おにがみ. Dictionaries also generally include the word as おにがみ. However, Takeoka indicates that there is no evidence for this reading -- just as あめつち is a compound "heaven and earth" and thus does not take rendaku, it seems that おに神 should be "demons and gods" and thus read unvoiced as おにかみ.
2
此歌あめつちのひらけはじまりけるときよりいできにけり あまのうきはしのしたにてめ神を神となりたまへることをいへるうたなり、しかあれども世につたはることはひさかたのあめにしては、したでるひめにはじまり、したでるひめとはあめのわかみこのめ也、せうとの神のかたちをかたにゝうつりてかゝやくをよめるえびすうた成べし、これらはもじのかずもさだまらず、歌のやうにもあらぬことゞも也、あらかねのつちにしてはすさのをのみことよりぞおこりける、ちはやぶる神代にはうたのもじもさだまらず、すなほにしてことのこゝるわきがたかりけらし、人の世となりて、すさのをのみことよりぞみそもじあまりひともじはよみける、すさのをのみことはあまてるおほん神のこのかみなり、女とすみたまはんとていづもの国に宮づくりしたまふ時にその所にやいろの雲のたつを見てよみ給へるなり、やくもたついづもやへがきつまごめにやへがきつくるそのやへがきを、
- あめつちの] あめつち(元)
- しかあれども] しかれども(元)
- 世につたはる] 世につたはれる(経・清)
- したてるひめとは] したてるひめは(元・経・清ィ)
- えびすうた] えびすのうた(元)
- ちはやぶる神代には] ちはやぶる(元)
- うたのもじ] うたもじ(経・清)
- すさのをのみことよりぞ] よりぞすさのをのみよとなりてぞ(元)、すさのをのみよとなりてぞ(経・清)
- ひともじは] ひともじには(元)
3
③ かくてぞ花をめで、とりをうらやみ、かすみをあはれび、つゆをかなしぶ、心こと葉おほくさま/\になりにける、とをき所もいでたつあしもとよりはじまりて、年月をわたりたかき山もふもとのちりひぢよりなりて、あま雲たなびくまでおひのぼれるごとくに、このうたもかくのごとくなるべし、なにはづの歌はみかどのおほんはじめなり、おほさゝきのみかどのなにはづにてみこときこえける時、東宮をたがひにゆづりてくらゐにつきたまはで三年になりにければ、王仁といふ人のいぶかり思ひてよみてたてまつりける歌也、この花は梅の花をいふなるべし、あさか山のことばゝうねめのたはぶれよりよみて、かづらきのおほきみをみちのおくへつかはしたりける時に、くにのつかさことおろそかなりとて、まうけなどしたりけれど、すさまじかりければ、うねめなりける女のかわらけとりてよめるなり、これにぞおほきみの心とけにける、このふた歌はうたの父母のやうにてぞてならふ人のはじめにもしける
